はまだ歯科医院のHPをご覧いただきありがとうございます。第3弾のテーマは「抜歯」について書いてみたいと思います。
今回の内容に関しては自分自身の私見も入っています。ただ、当院ではこういった考えの中で結果的に抜歯を選択していることをご理解いただけたらと思い書いてみようと思います。
私は大学卒業後、約10年間口腔外科という歯科の中でも外科色の強い教室に在籍しました。http://www.tmd-osur.info/index.htmlそのためこの10年間は相当数の歯を抜歯してきました。スパッと痛みなく抜歯を終えると患者様にも大変喜んでいただきましたが、本来歯を残すよう頑張らなければならない我々歯科医師が歯を抜く事ばかりうまくなってもしょうがないと自問自答する時期もありました。そんな日々の中で自分の中で一つの疑問が湧いてきます。
「何故、この歯は抜かなければならないのか?」
当然、何も理由のない歯を抜く事はありませんのでどの歯にもそれぞれの理由があります、親知らずの周りの歯肉が腫れた、むし歯が大きい、歯周病が進行して歯がグラグラなどどれも歯を抜く理由としては十分なものです。
ただし、これらの理由は違う角度からみるとこれだけでは十分でないことが分かります。それは
何故その歯を「今」抜かなければならないのか?
という答えにはならないからです。親知らずの腫れは抗生物質を内服すれば治まります、むし歯が大きくても、歯がグラグラでも食事するのに問題のない歯はたくさんあります。
むしろ抜歯をすれば少なからず痛みは出ますし、食事がしずらくなることもあるでしょう。抜歯をした事自体後悔される患者様もいるかもしれません。
なぜ「今」なのかという問いに自分自身がしっかりとした答えが出来るようになったのは恥ずかしながら卒後しばらくして歯周病治療のトレーニングコースに通うようになってからです。歯を保存するためのコースに通うことで結果的に歯を抜く理由が明確になったのです。
私が2年間通っていた歯周病治療のコースでは再三にわたって一つの事を徹底的に教え込まれます。それは口腔内に起きる病気の大部分が「感染症」であって我々歯科医師の役目は口腔内から感染を取り除き、かつその状態を維持する環境を作り出すということでした。
むし歯の治療と歯周病の治療では実際に行っている治療は全く別ものです。しかしながらどちらも口腔内から感染症(虫歯菌、歯周病菌)を取り除くための手段に過ぎず、感染症を取り除くという目的自体は同じなのです。
この感染症であるということを意識しはじめると様々なことがみえてきます。一本のむし歯を確実に治すスキルはもちろん重要ですが、いかに虫歯菌を再感染させないかはそれ以上に重要であることがわかってきます。そしてこの概念を意識するようになって初めてなぜ「今」抜歯をしなければならないのか明確に頭の中で整理することができました。
それはいずれの抜歯の理由も感染源を取り除く為には現在の歯科医療では抜歯以外に選択肢がないという事、そして「今」感染症を取り除かなければ感染源の残った環境を放置してしまうことになるからです。
この感染源を放置した環境ではいくら患者様に頑張って通院いただき歯の治療を継続されてもまた新たな元気いっぱいの虫歯菌や歯周病菌が活発に増殖してしまう結果となります。まさに負の連鎖反応と言わざるを得ません。
抜歯は歯科治療のなかでも歯がなくなる訳ですから最も避けたい方法でありますし、他の治療とは別物のような感覚をもちますが実際には歯を残して治療できる方法と感染症を取り除くという根本的な意義は全く同じなわけです。ただし、残念なのはその感染症を取り除く手段として「歯ごと」取り除く以外に方法がないということです。
私達、はまだ歯科医院では目の前の歯を救えるか救えないかを決める判断として、必ず感染を除去できるかどうかを念頭において考えています。むし歯が大きい事、歯周病が進行している事が抜歯の理由にはなりません。抜歯以外に感染を取り除く治療方法がないことが抜歯の本当の理由になります。ほんの些細な言い回しの違いですがこの意味合いの差は大きいと考えています。
歯を抜く事は後戻りのできない治療です、偉そうに書きましたが(笑)正直抜くべきか、抜かざるべきかボーダーラインの歯はたくさんあります。
どんな些細なことでもはまだ歯科医院へご相談ください。
長くなりましたが最後までお読みいただきありがとうございました。