いつもはまだ歯科医院をご愛顧いただき誠にありがとうございます。
当院には他院様で「虫歯が深いので歯の神経を取りましょう」と説明をうけられた患者様からのご相談を数多くいただきます。
患者様は本当に歯の神経は残せないのか?
根管治療が必要なのかどうか?をお悩みになっています。
正直に申し上げますと多くの場合、前医様の診断は正しく根管治療が必要なケース、つまり歯髄組織を残せない場合が多いと思います。
ただし、問題なのはなぜ歯髄組織が残せないのか?その根拠となる説明が患者様にされていないことにあります。
歯髄組織を残して治療するかどうかの判断には当然歯髄の検査が必要になります。
今回から連載で歯髄診断の概略、実際の検査方法、そして臨床例について触れていきたいと思います。
まずは歯の構造から始めていきましょう。
歯はエナメル質、象牙質、歯髄組織、セメント質の4層構造で構成されています。
最表層はエナメル質、中層が象牙質、中心部分が本日のテーマである歯髄組織になります。
歯根部分の表面はエナメル質は存在せずセメント質で覆われています。
エナメル質は96%が無機質で構成されておりその大部分がリン酸カルシウム結晶です。
人体の中で最も硬い組織である点と、人体の中で再生能力が全くない組織である点が特異的です。
象牙質は70%は無機質、20%がコラーゲンなどの有機質、残りが水分となります。
象牙質はエナメル質にくらべやや柔らかく、弾性のある組織になります。
象牙質は歯髄組織が生きている間は再生能力を有することが特異的です。
エナメル質は硬いが脆い性質があります。(お皿のようなイメージ)内層が柔らかい象牙質で支えられていないとすぐに割れてしまうとされています。
人間の構造は本当によくできています。
歯の治療を行う前に歯髄の状態を診断することはとても重要になります。
なぜならば歯髄の状態によって治療計画は大きく変わってくるからです。
歯髄の状態は直接目でみて判断することはできません。
歯髄は2つの硬い組織に囲まれていますし、健康な歯は削れませんので歯に穴をあけて歯髄の状態を直接見ることはできないからです。
また、歯科医院でお馴染みのレントゲン検査は硬い組織を診断することはできますが歯髄のような柔らかい組織を診断することはできません。
つまり歯髄は直接診断することができない歯科の中では稀な組織ということになります。
ご存知の方は少ないのですが歯髄組織には血流が走っています。
あまり想像がつきませんが歯にもしっかりと血が通っています。
「神経が死んでいるから歯の神経の治療をしましょう」と説明を受けられた患者様もいらっしゃるかもしれませんが、歯の神経が死んでいるというのは学術的には歯髄の血流がなくなっていることを意味します。
ただし歯髄に血流が走っているかどうかは前述のように歯に穴をあけて直接見ることは出来ません。
そのため歯の表面からでも測定できる各種検査を行いそれらを総合して歯髄の状態を判断する必要がなります。
歯髄の検査に一般的に1)歯髄電気診、2)冷試験 3)温試験が使われます。
電気当ててみて、冷たいものを当ててみて、熱いものを当ててみるとという極めて原始的な検査方法です。
これらの検査方法に共通しているのは
メリット
・検査が簡便で結果が迅速
・低コスト(日本の健康保険ではこれらの検査を行っても治療費をいただくことができません。)
デメリット
・検査結果が患者さんの主観に頼らなければならない。
・術者側が検査に慣れていなければ検査の再現性が難しいなどがあげられます。
検査の精度を上げるには患者様に検査の目的と、術者側がどのような反応をみているかを理解していただく必要があります。
いずれの検査も機械が自動的に診断を決定してくれるものではありません。検査結果の組み合わせ、正常と思われる歯との検査結果の比較などを行い歯髄の状態を判断します。
歯科医師の専門的知識、技量がとても重要になります。
次回以降に検査の詳細について、また歯髄の状態を診断することは実際の治療にどのように活かされるのか?
実際の治療ケースに触れながら書いていきたいと思います。